みなさん、明けましておめでとうございます。
芝生観察日記の第十二話です。昨年8月の第十一話以来ずいぶんご無沙汰してしまいましたが、この「芝生観察日記」をブログに掲載するようになって早いもので一年が経過しました。
昨年末、この観察日記を書き始めるきっかけとなった「FIFAクラブワールドカップ(以下、FCWC)」が開催されました。今大会をもって二年間はUAE(アラブ首長国連邦)開催が決まっている節目の今大会は、ヨーロッパ代表のマンチェスターユナイテッドが世界一の栄冠を勝ち取って無事終了しました。
思えば一昨年(2007年)のFCWC決勝前日の朝、FIFAのゼネラルコーディネーター(以下、GC)から言われた「昨年より何故芝生が悪いんだ」という一言に奮起し、最高の芝生でGCを見返してやりたいという意地と決意で書き始めたこの観察日記、そしてこの一年でした。
しかし、今年の大会に向けた我々の思いに反して、最高の芝生を作るためには厳し過ぎるフィールド利用が続きました。特に、8月と9月には2週連続を含む6日間の人気グループによるスタジアムコンサートが開催され、芝生にとっては大きなストレスとなりました。日本最大規模のスタジアムを運営していくためには欠かせない収益の柱であり、我々も苦しい胸の内です。それでも、9月のコンサートから三ヶ月が経過して迎えたFCWC。FIFAから派遣されたは、昨年の大会で我々を奮い立たせたあの人物でした。
今大会は、準決勝、3位決定戦、決勝戦の3試合に5位決定戦が加わるタイトなスケジュールでした。そして試合に出場する全てのチームは公式練習を行うため、2日間で4試合の他、公式練習が3日間で6チームという2002年W杯の時以上に厳しい日程でした。
※上の写真が前回と今回の比較ですが、照明下と日照下で解りずらいですがゼブラ模様の鮮明さがポイントです。
2002年は6月の開催ということで、芝生の生育に適した時季だったので、傷んだ後の回復がある程度想定できる時季でした。しかし、FCWCが開催される12月は、日産スタジアムの芝生にとって生育が鈍化する時季であり、傷んだ部分の回復が期待できません。そのため、我々ができることはとにかく傷まない芝生を作ることでした。そして、傷んでしまった部分は徹夜してでも補修を行い、試合に影響しないように舞台を整える決意で今年の大会に臨みました。
上の写真が苦い思いをした昨年と今年の状態の比較写真です。どうですか、ゼブラ模様の差が解りますか。今年は自信を持ってGCに見せることができました。そして、GCからもらったコメントは「Very Good!」でした。なんか、この一言で我々が一年間取り組んできた苦しい思いを払拭してくれる言葉でした。
選手からの評判も良かったようです。特に、北中米カリブ海の代表として来日したメキシコのパチューカの選手達が、芝生を撫でながら口々に素晴らしい芝生だと感動していたそうです。これもまた我々にとっては何よりも嬉しいことでした。
しかし、さすがに決勝戦を迎えるにあたっては、試合と公式練習でゴール前が激しく傷んでしまったため、決勝戦前日までに張り替えを行いました。
ゴール張り替え前 ゴール張り替え後
公式練習と試合を重ねていくに連れてGCもさすがにフィールドの状態が不安だったようですが、決勝戦当日の朝に張り替えられたゴール前を見て驚きの表情を浮かべていました。
世界一のクラブを決定するフィールド。そのフィールドの管理を任された我々の責任は重大です。噂話でも芝が悪かったから負けたなんて言われないようにしなければなりません。その重圧の中、手塩にかけて育ててきた芝生をこの大会だけのために張り替えることは胃が痛くなるほど辛い選択でした。養生してやれば来年にはまた良くなるのは解っています。それでも、世界一を決める最高の舞台を整えるのが我々の役目だと自覚しての決断でした。
日産スタジアムの一年を締めくくる大会として定着していたFCWCも2009年は、残念ながら開催されませんが、今年はF・マリノスのリーグ優勝と日本代表のワールドカップ出場を足下から支えられるように常に最高の舞台を整えていきたいと考えています。
また、不定期ですがこの「芝生観察日記」を今年も書き続けていきますのでよろしくお願いします。
前回の芝生観察日記(11)はこちらをご覧下さい
第1回目の芝生観察日記(FIFAクラブワールドカップジャパン2007)はこちらをご覧下さい