芝生観察日記の第四十一話です。
平成24年1月5日
あけましておめでとうございます。
日産スタジアムも今年で開場14年目を迎えます。
昨年はお陰さまで二年連続のベストピッチ賞を受賞することができ、知人やスタジアムを去っていった
先輩諸氏から届いた年賀状の多くに「芝生は良くて当たり前、それでも連続受賞は素晴らしい」と、一言
評価を加えていただいたことで今年一年またがんばろうという励みとなりました。
毎年同じ想いですが、F・マリノスのリーグ優勝があってこそ、本当のホームスタジアムの芝生
の評価だと考えています。三年連続のベストピッチ賞は当然我々グリーンキーパーの目標ですが、まずは
F・マリノスの優勝をアシストできる芝生を作っていきたいと思います。
さて、新年最初の芝生観察日記。今日現在芝生にはまだFIFAクラブワールドカップTM(FCWC)
で疲れ切った芝生を養生するためにシートが掛かっているので現在の芝生の報告はできません。そこで、3年ぶり
に日本開催となった12月のFCWCの舞台裏についてご紹介しましょう。
写真は、ゴールの設置作業風景です。作業自体はJリーグの準備と変わらないいつもの光景です
が、いつもと何か違うのが解りますか。答えはゴールネットを後方から吊るサブポールの色です。
2002年のワールドカップから、このネットを吊るタイプのゴールを使用してきました。
ワールドカップ前にFIFAから、サブポールの色についてゴールポストと選手が見間違わない色という
ことで黒に指定されて今日の黒いサブポールが定着していました。ところが、今回のFCWCでは大会1週間
前にFIFA(国際サッカー連盟)のゼネラルコーディネーター(GC)が視察に来て、ゴールポストを確認したいということで
倉庫にあるゴールセットを見せたところ、2008年のワールドカップ南アフリカ大会からサブポールの色が
FIFAブルーに統一されているのだと言い出し、既にこの色がスタンダードであるとのこと。同行した日本
サッカー協会の方も知らなかった様子で、大会1週間前にそれを言うかと思いつつも、業者さんに協力して
もらい即席でゴールポストを塗り、保護カバーも同色の作成を依頼しました。
さすがFIFA様。やってくれるよなと嘆き、先行き不安に思いつつも何とかオーダーに応えて大会に臨みました。
準備が整ったのは実に準決勝戦の2日前でした。
ということで、今年からはこのFIFAブルーのサブポールとなります。
次は、「スパイダーカム」の設置作業風景です。クモのようにフィールド上空を縦横無尽に動き
回って臨場感ある映像でみなさんも感動したことと思いますがスタジアムの4隅から吊られたワ
イヤーで操られるカメラは正にプロフェッショナルな技でした。
でも、このカメラで上空から撮られると普段はみなさんに判らない芝生の粗まで鮮明に写
しだしてくれるので、我々グリーンキーパーには厄介なカメラでした。
聞くところによるとこのカメラ、2005年のアカデミー賞テクニカル部門でオスカー賞
を受賞しているとのことで、その技術はさすワールドクラスという感じでした。
次は、決勝戦前に行われるクロージングセレモニーのリハーサル風景です。2002年のワールドカップの
時より少々小ぶりですが、このセレモニーに約100人のスタッフが芝生内を右往左往しました。
我々グリーンキーパーとしては、大事な試合の前に正直この手のセレモニーは丹精籠めて作った芝生が荒れて、綺麗なゼブラ模様もぼやけてしまうので避けて欲しいところですが、これも含めてワールドカップなのだと自分
自身に言い聞かせています。それでも、芝生を守るために可能な限りの対策を講じます。それが、リハーサル
時のシート養生です。本来は保温や霜避けのために設置するシートをセレモニーのリハーサル時に設置すること
で芝生を擦り切れから護り、人の足跡を緩和させます。我々には効果が有ると思っていますが、結果としては
、先ほどの「スパイダーカム」で上空から映された映像では足跡が結構目立ちました。これが判るのは我々だけ
かもしれませんが。
PKマークとゴール前の芝剥ぎ後の状況
PKマークとゴール前の芝張り後の状況
最後は、芝生です。今回のFCWCは豊田スタジアムと日産スタジアム(横浜国際総合競技場)
の2会場で開催されました。日産スタジアムは決勝戦を始め3試合。豊田スタジアムでは5試合が
行われましたが、短期間でこれだけ国際試合をこなすと芝生には結構厳しい結果をもたらします。
国際試合は、試合前日に翌日試合を行うチームが会場に慣れる目的で、必ず公式練習を行います。
時間は各チーム1時間ずつですが、ある意味試合よりも芝生に及ぼす影響は甚大です。傷む場所は
決まっています。
今大会も8試合の内2試合がPK戦となりましたが、どのチームも限られた時間
の中で、ペナルティーキックの練習に当てる時間が長く、当然局所的に踏圧や擦り切れが嵩むPK
マークやゴールエリア付近の芝生がほぼ壊滅します。
丹精込めて育てた芝生ですが、試合に影響する状態では張り替える以外に選択肢はありません。
3位決定戦と決勝戦で試合を行う4チームの公式練習が終わった20時過ぎから、両ゴール前とPK
マーク部分の芝生を張替えました。気温は5℃。時間と共に気温は下がり、芝生の張替えが終わ
った23時過ぎには芝生表面の露が凍り始める状況でした。予想外に北側のゴール前が傷んだため
張替え面積が拡大したので時間的にかなり厳しい作業となりましたが、何とか間に合いました。
試合当日、芝生の張替え作業には自信はありましたが、PK戦となった3位決定戦の時は芝生が捲
れないかとドキドキしながら試合を注視していました。
幸い我々が張り替えた芝生は、その後の決勝戦でも問題なく素晴らしい決勝戦の舞台であったと
自画自賛のうちに大会は幕を閉じました。
昨年末発表された2012年のザックJAPANのスケジュールを見ると、残念ながら日産スタジアム
での日本代表戦は予定されていないようです。
FCWCも日本での開催は決まっているものの横浜で開催されるかは定かではありません。
ということで、今年はF・マリノスのリーグ優勝をアシストすることが最大のミッションではありますが
、市民のみなさんにスタジアムの芝生を体感していただける機会を増やすことも我々の大きなミッション
だと考えていますので2012年の日産スタジアムに乞うご期待。
今年も日産スタジアムをよろしくお願いします。