みなさんこんにちは。2004年Jリーグセカンドステージも開幕し、横浜F・マリノスは優勝の狙える位置でがんばっています。このまま史上初の4シーズン連続優勝となるのでしょうか。楽しみですね。 さて、これまでに競技場の芝生について「青々としている理由」や「選手の好む芝生」、「コンサート時の養生」等々、色々とお話させていただきました。多くの方が芝生に興味を持ってくださっていることに感謝したいと思います。ところで、興味を持たれた方から『家の庭にも競技場と同じ芝生を植えたいがどうしたらよいか』とか、『芝生が上手く育たないがどうしたらよいか』、『オーバーシードってどうやるの』などの声が聞こえてきました。そこで今回はよく聞かれる質問にバーンとお答えいたしましょう。
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みなさんこんにちは。 早いものでもう6月になってしまいました。Jリーグ2004・1stステージも大詰めとなっていますが、横浜F・マリノスは優勝を狙える位置でがんばっています。(6/17現在) さて6月と言えば、ジメジメとうっとうしい梅雨の季節です。毎日のように雨が降り、その上湿度が高く蒸し暑い日が続きます。この時期は芝生にとっても決して過ごしやすい環境ではありません。では、この梅雨時期をどのように乗り切っているのかお話しましょう。 野球の場合、雨が降ると中止になることが多いですが、サッカーでは原則中止はありません。皆さんのご記憶にもあると思いますが、2001年6月7日に行われたコンフェデレーションズカップの準決勝は今でも伝説となっています。 その日はここ横浜国際総合競技場で、日本vsオーストラリアの試合が行われました。天気予報でも『夕方から所によって雨か雷雨』との予報は出ていましたが、まさかあれほどの雨となるとは誰もが予想していませんでした。1時間あたり47ミリという集中豪雨が試合開始と同時に降り始め、試合終了後まで降り続きました。
選手はもちろんの事、スタッフ・関係者やサポーターまでがどうすることもできず、諦めてずぶ濡れになるほどの雨でしたが、試合終了後の中田英寿選手の『前も見えないほどの雨だったが、ボールは普通に転がっていた。』の一言がピッチ(グラウンド)のすべてを語っていました。 自慢する訳ではありませんが、あの状況で水溜り一つ出来ずに試合を続行することができたフィールドは、世界中でここ「横浜国際総合競技場」だけだったと言っても過言ではないと思います。その証として、FIFA(世界サッカー連盟)会長が『ウォーターポロ(水球)にならずに済んだ。すばらしいスタジアムだ。』と絶賛し、大会期間中にも関わらず感謝状まで出してくれました。
では、なぜ横浜国際総合競技場では水溜りができないのでしょうか。もちろん芝生の状態が良い事で、根からの水分吸収率が良くなり、排水性を高めていることも要因のひとつです。しかし他の競技場と全く違った要因があるのです。それは競技場そのものが『宙に浮いた状態』になっていることです。 ご承知かもしれませんが、横浜国際総合競技場は遊水地の中に建っています。そのため、地上部より約12m上がったところにフィールドが造られている、いわば高床式競技場です。この高床式には、利点・欠点がありますが、こと排水性に関しては利点となっています。通常の競技場では、人間のろっ骨のような形で排水管を埋設し、集積した雨水を脇から排水しています。しかし、横浜国際総合競技場では同じようにろっ骨状に排水管を埋設してありますが、横から抜くのではなく、要所要所で真下に落とすようになっています。そのため、水が横走りすることなくどんどん下に抜けていくため、排水速度が非常に早く、結果として通常では考えられない雨量にも対応できる排水力を持っているのです。
日本の年間総雨量は世界的に見ても多いほうです。また湿度も高く、6月のこの時期はカビが生えたり物が腐り易くなったりします。芝生にも菌糸がつきやすく、病気になりやすい時期といえます。そのため芝生の中がジメジメしないように、床の土も排水がよいように砂を使用している場合が多いのです。 一方ヨーロッパなどでは、水はお金を出して買うものですから、むやみに芝生に撒くことなどできません。しかし、芝生は水分がなくては生きていくことができません。そこで保水性を高めるため、粘土質の土を床に使用している場合が多いのです。グチャグチャのフィールドでサッカーをやっていることが多いのはそのためといえるでしょう。 日本国内の競技場は、床構造が砂の競技場がほとんどで、排水性を重視しています。この考え方が梅雨時期の芝生を湿気から守り、良好な状態を保つ決め手となっているのです。 |
みなさん、こんにちは! 寒い寒いと思っていましたが、早いものでもうJリーグ開幕の時期となりました。 3月13日に横浜国際総合競技場で行われる横浜F・マリノスの開幕戦の相手は、浦和レッズです。大型補強で戦力が数段アップしたそうです。試合当日は、4万人以上の来場者が予想され、注目度の高さが伺えます。昨年完全優勝を飾った横浜F・マリノスがどんな戦いをみせてくれるか楽しみです。きっと今年も私たちの期待に応えてくれるのではないでしょうか。 Jリーグの開幕は、競技場にとっても今シーズンのスタートです。その舞台となるのは、選手が最高のプレーができるように整備された「鮮やかな緑の芝生」です。芝生には、この緑を一層引き立ててくれる濃淡の鮮やかな縞模様がついています。そこで今回は、芝生の縞模様ができる理由についてお話をします。 テレビゲームやボードゲームのサッカーでも、芝生は緑色でしかも縞模様がついていることが多いようです。縞模様は、それくらい皆さんに認知されているようです。しかし、どうして縞模様ができるのでしょうか?芝生の種類が違うから?異なった緑色で塗っているから?そんなふうに考える方は多いと思います。 実は縞模様のできる理由は、「刈込み」にあります。正確に言えば刈込みを行うことによって付いてしまっているのです。それを見栄えよくするために、均等の幅で刈込んでいるのです。 芝生を刈る機械には大きく分けてリール式とロータリー式の2種類があります。 リール式刈込み機とは、ねじれた刃数枚が円筒状についている回転刃が縦方向に回転し、受けとなる平らな刃(下刃)で挟み込むようにして芝生を刈る方法です。それに対してロータリー式刈込み機とは、ヘリコプターの羽根のように1枚の板刃を回転させてその勢いで刈込む方法です。
横浜国際総合競技場や小机競技場で使用している芝生は、ティフトン419(暖地型)とペレニアルライグラス(寒地型)です。(Vol.2「芝生のとっておきの話(1)」)これらの芝生は細かい葉が密生しています。その上ペレニアルライグラスは非常に柔らかく水分量も多い性質をもっています。そのためロータリー式刈込み機械のような勢いで刈り取ろうとする機械を使用すると切り口が揃わなくなってしまい、後に茶色く変色して全体的な景観を損なうようになってしまいます。 そこで「はさみ」のように両側からしっかり押さえて切るリール式の機械を使用して刈込みを行っているのです。 ロータリー刃は、公園などで使われている野芝や高麗芝で多く使用されています。野芝や高麗芝はティフトンやペレニアルライグラスと比べて葉幅も広く、芝生自体がしっかりしているので、ロータリー刃できれいに刈込みすることができるのです。(リール刃で刈込むことも可能ですが、機械の消耗が激しいので使用しないことが多いです。)横浜国際総合競技場では、小机競技場の外周部分の野芝を刈込む時に使用しています。
では、本題の芝生のシマシマです。 縞模様は、芝生の倒れ方によっておこります。芝生がどちらに寝ているかで光の当たり方が変わって違う色に見えているのです。その向きを決めているのが、リール式の刈込み機械なのです。 リール式刈込み機械は、芝生を内側に巻き込みながら刈るため、手前側に芝生が寝るようになります。グランドの端まで行きUターンして反対側から同じように刈込んでくると、先ほどとは逆側に芝生が寝ていくのです。これを繰り返し行うことによって濃淡(縞模様)が生まれるのです。通常は芝刈り機の後方から芝の刈った後を見ると芝は淡くみえ、前方から見ると濃く見えます。 また縞模様の幅は、芝刈り機の芝刈り幅を変えることによって自由に変えることができます。横浜国際総合競技場では、Jリーグや代表戦などの試合の時には4.5?6mで刈込みを行い、特に利用のないときには、刈込み機械が2台並んで刈れる3m前後で刈込んでいます。また、サッカーの試合時には、オフサイドの判断がしやすいようにメインスタンド側からバックスタンド側に刈ることが多いです。しかし、普段は芝生に寝癖がつかないように縦に刈ったり斜めに刈ったりもしています。
これらは各々競技場によって特色があり、違った思考で行っている部分でもあるので、その点に着目して観戦されるのも面白いのではないでしょうか。 横浜国際総合競技場では、これからもプレーする選手たちが、よりプレーし易いようなコンディション作りはもちろんのこと、観戦に来られた人たちが見やすく、感動していただけるような舞台作りに焦点をおいていきたいと思います。 |
みなさん、こんにちは! 早いもので今年も残りわずかとなりました。 Jリーグは終わりましたが、ここ横浜国際総合競技場では東アジアサッカー選手権大会やトヨタカップが行われます。大きな大会を控えているのに、競技場周辺の12月の平均気温は7℃程度になるため、芝生の生育しにくい厳しい環境になってきました。 寒い冬の時期にヨーロッパリーグの試合をテレビで見ていると、ゴール前の芝生が少なくなっている光景をよく見かけます。わが横浜国際総合競技場はどうかというと、おかげさまでそういったことはあまりないようです。さて、それはなぜでしょうか?? その理由は、横浜の芝生がヨーロッパの芝生より強いから?ヨーロッパの方がより多く使用しているから?日本選手の方がヨーロッパの選手より芝生にやさしいプレーをしてくれるから? う?ん、どれが本当でしょうか? 皆さんもご承知のように日本選手のレベルもかなり上がり、世界で活躍する選手の数も増えてきました。ですから、芝生に与えるダメージはほとんどヨーロッパとは変わりはないように思えます。芝生はというと、この時期にヨーロッパで広く使用されている種類と同じ冬芝を横浜国際総合競技場では使用しています。使用頻度はというと、ヨーロッパのスタジアムはチームが所有しているスタジアムも多く、そのチームのホームゲームでしか使用しないスタジアム(シーズン中は)もたくさんあります。日本では兼用グランドが多くサッカーの他に、陸上競技やラグビー、アメリカンフットボールやコンサートなど様々な利用に使われています。ですからヨーロッパの芝生の方がより多く使用されているとも言えません。 ですのでこれは、「補修」の差と考えられます。 そこで、これから補修について簡単にご説明していきます。 一言に「補修」といっても痛み具合によって、いろいろな方法があります。 一つ目は、まとまった面積を一度に張替えるときに行う「面補修」といわれるものです。ゴールエリアやセンターサークル内、コーナーエリア内など人が多く集中して荒らされてしまったところでよくやります。ソッドカッターと呼ばれる厚さ3?5cm、幅30cmで切り取ることのできる機械を使用して、圃場(ナーセリー)と呼ばれる競技場と同じ芝生を育成している場所から切り出した芝生と差し替えをする方法です。
二つ目の方法は「カップ補修」といわれる方法です。ゴールキックやコーナーーキックなど特定の場所で行われる場合、その部分だけが痛んでしまったり陥没してしまったりします。面で張替えるほど大きな面積でない場合、ヘキサゴンプラガと呼ばれる直径20cm位の六角形の道具を使ってその部分だけを抜き取り、入れ替える補修方法です。なぜ六角形なのかといいますと、仮に一つで入りきれなかった場合、複合させるのに無駄なく合わせやすいのでこの形となっているようです。
そして最後の方法は、張り替えるほどではないが、表面の芝生がなくなってしまっていたり、亀裂は入っているが取れていないような場合に行う、「部分目砂」という方法です。これは徐々に芝生が痛んで、最終的には補修しなければならなくなる状態を防ぐための作業です。このほかにも強い芝生にするために、刈込みや肥料散布などの作業が必要です。 Jリーグの試合でハーフタイム等にバケツを下げた人たちが出てきているのを見たことがあると思います。この作業が「部分目砂」です。人間も怪我をしたときに応急手当ができていれば回復も早くなるでしょう。芝生たちも痛めつけられてすぐに手当てしてあげることによって、早く回復してくれるのです。だから試合中でもバケツを下げてフィールド内で作業をするのです。これは前半が良い状態でゲームができたのなら、後半も少しでも同じ状態で始められるようにする気持ちの表れでもあります。このようなことの積み重ねが良い芝生を作る原動力となるのです。 ぜひ東アジアサッカー選手権やトヨタカップをご覧になるとき、整備された芝生にも目を向けてくださいね。
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みなさん、こんにちは!
今回の芝生のとっておき話は、横浜国際総合競技場の『夏の風物詩』ミュージックコンサートのお話です。 今年は8月23・24日にSMAP、30日・31日にサザンオールスターズの熱いステージが繰り広げられました。
過去に横浜国際総合競技場では、1999年8月にB'z・9月に矢沢永吉が、2002年8月には再びB'zがコンサートを行いました。(イルカやKiroro、ゆずやアルフィーが単発的に歌ったことはあります。)スタジアムとしては国内最大の収容人数(7万人)を集めるコンサートですので、大規模なステージを造るのも大変です。もっとも2日間で14万人もの人を集める国内アーチストもすごいのですが・・。 実はこの大がかりなステージの設営によって、通常使用している観客席が使用できなくなってしまいます。ちょうど舞台裏の南側の観客席です。座席数は、15,000?20,000席にもなります。もともと横浜国際総合競技場の収容人数は7万2千人です。この入れなくなった席分をどのようにして補うかというと、競技場の命ともいうべき芝生の上にアリーナ席を設けるのです。このアリーナ席が少なからず芝生に影響を与えるのです。 そこで登場するのが、秘密兵器の『テラプラス』です。この『テラプラス』は芝生保護材の役割があり、敷詰めてから椅子を並べることで芝生のダメージを少なくできるのです。
『テラプラス』は、イギリスのウェンブリースタジアムでコンサートを行うときに芝生を保護する物として開発された資材です。17個の円形の脚で踏圧を分散するようになっており、中に5cmの空間があって、その中で芝生が生育できるように作られています。(国際特許取得) これによって2?3日間ならば、芝生に致命傷を負わすことなくコンサートが行えるようになったのです。
しかし、芝生は生き物です。テラプラスによって負荷は軽減できますが、もともとの体力がなければ、どんなことをしても枯れていってしまいます。そのためコンサート前の芝生にはストレスを与えず、伸び伸びと生育できる環境を提供しなければなりません。そして、コンサートまでにトランジッション(冬芝から夏芝への切替)作業で切り替わった夏芝(ティフトン)をしっかりしたターフに作り上げていくのです。 この作業では、気温や天気(梅雨明け)を考慮し、刈り高の変更や肥料散布、散水等のタイミングを毎日のわずかな変化の中から見つけ出して一番良いタイミングで施してあげることが大切です。しかし、テラプラスの中は高温多湿になるので、敷設後にまで肥料の効果が残っているとヒョロヒョロともやしのように育ってしまいます。そうしないためには、テラプラスの敷設までに肥料が切れている状態にします。すなわち、この1ヶ月程の短期間で芝生をノビノビと育てる作業と、じっと我慢させて育てる作業をしなければならないのです。
その上でコンサート時には、テラプラスを敷設している時間を少しでも短くし、ミキサー卓などの遮蔽物はできるだけ少なくしてもらうように主催者側に交渉も行います。あとは天気が安定してくれ、芝生たちががんばって耐え抜いてくれることを祈るだけです。
もちろんコンサート前の期間中もJリーグをはじめとする芝生の利用もあり、良好な芝生は求められ続けています。芝生にとってもグリーンキーパーにとっても、1年のうちでこの1ケ月が正念場です。 楽しいコンサートの下では、このようなストーリーが繰り広げられています。コンサートで競技場に来られた方には見えない芝生ですが、そんなところも気にしていただけるとうれしいです。
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みなさん、こんにちは! 早いものでJリーグ1stも中盤に差し掛かってきました。横浜F・マリノスは優勝を目指して見事に上位をキープしています。今が正念場というところでしょうが、ぜひともがんばっていただきたいものです。 さて、この時期その戦いの舞台となる芝も、マリノスの選手と同じように一つの正念場を迎えています。芝生は寒く厳しい冬を乗越え成育の時期を迎え、いよいよ冬芝から夏芝への本格的な切り替えシーズンが始まろうとしています。 そこで今回は、知る人ぞ知る『芝生の切替え作業』についてお話しましょう。 競技場に来場された方から、「ここは2種類の芝生を使っているんですよね。いつごろ夏芝の種子を蒔くんですか?」とか、「いつごろ張替えを行うのですか?」などと聞かれることがあります。横浜国際総合競技場は確かに2種類の芝生(夏芝と冬芝)を併用しています。しかし、冬芝から夏芝への切替えのために、種子を蒔いたり、張替えを行ったりはしていません。では、どうやって切替えをしているのでしょうか。 競技場では2種類の芝生を使用していますが(詳しくは「芝生のとっておきの話(1)」をお読みください。)厳密に言えば、夏型の芝生をベースとして使用しており、休眠してしまう冬場だけ冬芝の種子を蒔いて補っている。といった方が正しい表現だと思います。 冬芝は種子繁殖するので毎年秋口に種を蒔きますが、夏芝は樹木などと同じように春先になって気温が高くなってくると新しい葉を出して繰り返し育つ芝生なので、種まき等は必要がないのです。 そこで私たちがすることは、芽が出てきた夏芝が冬芝に負けずに少しでもはやく生え揃うようにしてあげることなのです。
では、具体的にどのようなことをするかをお話しましょう。 まずはじめにすることは、夏芝が休眠する冬までに、翌年芽が出る体力を蓄えさせることです。これは前年の夏から秋に掛けて芝生が貯蔵養分を蓄えるために、水や肥料を十分に与えて丸々太った状態にさせてから寒い冬を迎えるためです。 次に行うことは、冬場の時期から利用に支障ない程度でそれ以上に冬芝を育て過ぎないように心掛け、肥料等も控え目にすることです。これは春先になって気温があがり芝生が目覚めて芽が出始めた時に、秋口に蒔いた冬芝が覆ってしまって夏芝の出てくるスペースを奪わないようにするためです。 そして春先になり夏芝の芽が確認できたら、冬芝を間引く作業(バーチカット)で夏芝が繁殖する場所を作ってあげます。
そのスペースを夏芝が覆うようになり始めたら、穴あけ作業(エアレーション)で冬芝を乾燥させ衰退を促します。
しかし、この期間もJリーグなどの利用が入っているため、一気に冬芝をなくしてしまうことはできません。夏芝の増えるスピードに合わせて冬芝の量を少しずつ減らしていかなければならない点が難しいのです。 もうひとつ大切な作業が刈込みです。通常冬芝のときは20ミリ前後の高さ(刈り高)でカットしていますが、この高さでは出てきた夏芝に光が当たらず、せっかく出てきても枯れてしまいます。それを防ぐためには出来るだけ低く刈る必要があります。選手たちに迷惑を掛けずに行える高さとして競技場では12ミリ?15ミリに設定しています。この時期の芝生は1日に1?2ミリ伸びてしまうため、この刈り高で週3回程度の刈込みを行っています。 横浜F・マリノスの試合の時は15ミリでもやや短いため、前日(前々日)に刈込みを行うだけとしています。(当日試合時は伸びて17?18ミリ)先日、サッカー関係者から「もう少し長くてもよいのでは?」というお話がありました。「伸ばすことはできますが、短くして少しでも早く夏芝が育つような環境作りをしてないと、夏場になって冬芝が衰退したときに芝生が無くなってしまい、ご迷惑を掛けることになるかもしれません。」と説明したところ、ご理解をいただきました。 これら一連の冬芝から夏芝への切替作業を総称して「トランジッション作業」といいます。ですからこの期間は、3月中下旬より始まり7月下旬位までの長丁場となります。
一見すると同じ芝生のようでも、誰にも気付かれずに冬芝を夏芝へ切替えているのです。こんなところに注意しながら違った形でJリーグを見てみるのも面白いのではないでしょうか。 次回は「コンサート時の芝生管理」についてお話します。 |
みなさん、こんにちは! 今回はサッカー選手の好む芝生についてお話をします。 横浜国際総合競技場は、皆さんもご承知のとおり『横浜F・マリノス』のホームスタジアムです。今まではワールドカップの開催や準備等がありましたので、年間10試合程度しか行うことができませんでした。しかし今年からはリーグ戦・ナビスコカップを含めて多くの試合が開催できそうです。 さて、よく『ホームの利』と聞くことがあると思いますが、それってなんだと思いますか?もちろん大勢の地元サポーターの応援もその一つです。その他にも試合を有利に進めるためには、選手一人ひとりが芝生の特徴を知っていることも大切な要素だといえるのではないでしょうか。
サッカーは11人対11人が、いかに相手にボールを渡さずに相手ゴールにボールを入れるかというスポーツですよね。転がしたり浮かしたり、強い球だったり弱い球だったり、相手に取られないように色々と工夫しながらボールをつなぎシュートします。高い技術を持った選手がピンポイントで正確にパスをするのを観て、感心してうなずく方も少なくないと思います。しかし、同じ選手が珍プレーにでてくるような空振りをしたり、とんでもない方向に蹴ってしまうことがあるのです。それは単に選手の技術だけではなく、グラウンドの状態にも影響する場合があります。 また、十人十色とはよく言ったもので、選手それぞれに芝生の好みがあります。同じ状態であっても、良いと言ってくれる人もいれば、残念ながら二度とプレーしたくないと思ってしまう選手もいるかもしれません。ですから全員が満足するような芝生を造ることは、とても難しいのです。そこで、すべての選手のパフォーマンスを最大限に発揮できるように日々芝生造りに力を注いでいるのです。 ここからは芝生造りの重要な点についてお話をします。 まず一つ目にあげられるのは、芝生の密度(芝生の芽数)とその長さです。 横浜の芝生は国内の競技場の中でも非常に葉幅が狭く、細かい芝生を使用しています。皆さんは山下清画伯の貼り絵をご覧になったことがあるでしょうか?細かく小さくちぎった紙をいくつも張り合わせることによって、すばらしい絵に仕上げているのです。同様に芝生も細かい葉が密生することによって遠くから観た(スタンド)時によりきれいに見えるのです。
芝生の長さは競技場によって違いますが、全国的には20?30ミリ位が主流です。その中で横浜は、18ミリ?22ミリ位に刈っています。短かくする利点は、ボールの転がりがよくなり、パススピードが速くなることです。しかし、短くすることは芝生の損傷も大きくなるので、しっかりとした芝生に育っていないとなかなかできないのことなのです。 もう一つは硬さです。定期的に硬度計で硬さを調べ、硬くなり過ぎていれば柔らかくする作業を行っています。具体的な数値としては95?97ポイントが理想的なようです。90ポイント以下になると、踏ん張りが効かなくなり芝生がめくれたり、選手がバランスを崩したりします。逆に110ポイント以上になると、選手の足に負担がかかり、90分間動くのがしんどくなったり、怪我の原因になる可能性もあります。 Jリーグなどの大会利用日には必ず硬度を調べていますが、オープン当初は120?140ポイントでした。しかし、現在は平均して100ポイント前後を維持しています。
どこのスタジアムの芝生を見ても変わりなくみえますが、ずいぶん違いがあることがわかったでしょうか? 4月5日にはJリーグ2003シーズンのマリノスホーム開幕戦が行われます。ぜひ横浜国際総合競技場へマリノスの熱戦を見に来てください。そして、来場の際には競技場の芝生にも目を向けてくださいね。 次回は、「冬芝から夏芝への切替作業」についてお話しします。 |
縞模様がきれいなスタジアムのピッチ |
ティフトン419の芝 横に伸び、ややくすんだ緑色 |
ペレニアルライグラスの芝 細かい直立茎で明るい緑色 |
(オーバーシードの作業手順) (1) 左側のように芽数を減らす。 |
(2) 暖地型の上に寒地型の種子を落とす。 |