芝生観察日記の第百三十一話です。
令和五年5月13日(土)
お待たせしました昨年11月2日以来の更新となります。
前回の芝生観察日記でご報告した通り、日産スタジアムは5年に一度更新しなければならない日本陸連一種公認を更新するための検定に向けたトラックの改修工事に入っていたため芝生の作業が大幅に制限されていました。特に、12月と1月は月に2回程度しかフィールドに立ち入ることができない状況でした。
そのような状況を考慮して、昨年の秋は開場以来、初めて冬芝のオーバーシードを行わず冬を迎えました。
検定は3月10日~3日間の予定で行われ、無事に公認を更新することができました。
これにより5月21日に開催される「セイコーゴールデングランプリ陸上2023横浜」においてアスリートの皆さんが出した記録が、公式記録として公認されることとなります。好記録を期待しましょう。
工事期間中の我々に課されたミッションは、2月25日に予定されているF・マリノスのホーム開幕戦に向けて、オーバーシードしていない夏芝を、如何に試合に支障を来さない状態に仕上げるかでした。
芝生は夏芝のティフトン419なので、通常なら4月上中旬頃から動き出す芝生です。本来、2月25日はまだ休眠中の芝生をプロレベルの試合が開催できる状態に如何に仕上げていくのか難しいミッションでした。
この間の芝生の変化をご覧ください。
11月17日、暖冬気味だったので緑度を保ち、シートで蒸れて病気の菌糸が出るくらいみずみずしかった。
12月25日、シートとアンダーヒーティングの効果で若干緑の葉は見られるが、年末にはほぼ休眠に入った。
1月18日、引き続きシートとアンダーヒーティングを使いつつも、さすがに完全な休眠状態で緑度を失った。
2月25日、期間中は通期で暖冬だったため、想像以上にティフトンが萌芽し、写真のようにゼブラ模様も付いて何とか開幕戦に間に合わせることができた。
3月27日、開幕から約1ヶ月後、ティフトンはより密度を増加させ夏芝とは思えないほど緑度を増した。
対外的に課せられた最大のミッションは2月25日のJリーグ開幕戦に間に合わせることでした。加えて重要だったのは、ティフトンを完全な状態のターフに仕上げることでした。オーバーシードとトランジションをしないで、これだけの長期間を夏芝だけで生育させるタイミングはなかなか無いことなので、この機に夏芝を熟成させたかったのです。下の写真は、左側が4月29日の名古屋戦、右側が5月7日の京都戦の全景になります。天気の加減で色味に差はありますが、どちらもティフトンの状態としては過去にないくらいの出来となっています。途中ラグビーの利用もあったため細かい不陸を感じますが大きな問題ではありません。今後の管理によって修正していく予定です。
さて、前回の観察日記で工事期間中の状況を報告しますとし記載しましたが、工事期間中は殆ど養生シートが掛っており、いいタイミングで芝生の様子や管理作業を記録できませんでした。それに加えて今回のミッションは我々も初めての経験であり、正直うまく行くのか不安だったのでタイムリーな情報提供は控えてきました。
昨年からF・マリノスのチーム関係者には迷惑を掛けてきましたが、理解を得ながらやってくることができました。
今回のミッションでは、肥料のやり方、シートの材質や組み合わせ方、アンダーヒーティングの温度設定など色々な工夫やチャレンジをしてきました。 Jリーグが春秋制から秋春制に移行することが検討されています。これに伴い、各スタジアムの芝生管理にも多少なりとも影響が出てくるでしょう。今回の経験は、そのような変化にも活かせるものだと思っています。
また、不定期ではありますが引き続き更新していきます。