芝生観察日記 第120話

芝生観察日記の第百二十話です。

令和三年10月13日(水)

<~ Road to 2019&2020 ~>

 ずいぶんご無沙汰してしまいましたが、久しぶりの観察日記です。

 Road to 2019&2020 として、ラグビーワールドカップと東京2020オリンピックに向けた芝生管理について綴ってきました。しかし、東京2020オリンピックはご存知の通り、大会直前まで開催に関する詳細が決まらずやきもきし、最終的には無観客での開催となりました。

 無観客での開催は、残念ですが世の中の状況を考えると仕方ありません。それでも開催できたことで目標としてきたオリンピックのサッカー決勝戦会場として歴史に名を残すことができ、光栄なことです。

 これにより、サッカーとラグビーのワールドカップに加え、オリンピックサッカーという世界3大スポーツの決勝戦を開催した世界で唯一のスタジアム「Final Stadium×3」となりました。

 本来であれば、大会前・中・後という感じで観察日記を更新していくつもりでしたが、東京2020はスタジアム内の情報等の配信に制限があったため、ついつい更新を先送りしてしまいました。

 既に、東京2020のサッカー競技が終わって2カ月が経過し、喜怒哀楽の様々な思い出も薄れかけていますが、記憶を辿りながら少し東京2020の状況を回想します。

 今回、東京2020を迎えるにあたり、日産スタジアムではハイブリッド芝を卒業して従来のティフトン419に芝種を変更して大会を迎えました。

 芝種が変わり、大会に向けた養生管理を始めた矢先の6月14日には梅雨入りし、大会直前の7月16日の梅雨明けまでティフトンの生育に欠かせない気温と日照時間が足りない天候が続きました。

 元々、今大会は17日間で11試合という大変過密な試合日程だったため、よっぽどの強い芝生でなければ張替え等の補修作業に追われるだろうと不安視していましたが、低温・日照不足の梅雨空によりそのネガティブな想定が真実味を増していきました。

 しかし、幸い梅雨明け翌日からは連日夏空となり、急激にティフトンの生育が旺盛になり、見る見るうちにコンディションは向上していき、大会中も概ね天候に恵まれました。

 大会中は、試合間隔や試合数などを考慮し、刈高を16㍉から最大20㍉に上げる試合もありましたが、決勝戦は18㍉で迎えて、最も傷みが激しい状態であるはずが、大会を通じて一番良い状態で決勝戦を迎えられたと我々的には自負できる状態に仕上がりました。

 決勝戦前日には、東京の新国立競技場で開催されるはずだった女子の決勝戦が急遽会場を横浜に変更して開催するという想定外の事態となりましたが断れるはずがありません。また、幸い芝生的にも受け入れ可能な状態であったため、17日間で12試合という大役を滞りなく全うすることができました。

 今大会は、FIFA(国際サッカー連盟)の芝生担当マネージャーがほぼ毎日付きっきりで芝生の状態や管理作業をチェックし、刈高や肥料に至るまで細かい指示がありました。意見の相違からストレスを感じるも場面もありましたが、世界一の国を決める大事な舞台を任された彼の重責も理解し、お互いに歩み寄りながら決勝戦が終わった後には、「いろいろと対応してくれてありがとう」という感謝の言葉をもらい、最後に信頼を得られたような気がして安堵することができました。

 あれから2カ月、9月21日には例年通り播種を行い、優勝を争うマリノスを足元からバックアップできるようにいつもの通常の管理に戻っています。

 マリノスが日産スタジアムに戻ってくるのは、今週末16日のコンサドーレ札幌戦からとなります。現在、ライグラスは4葉となり、完璧とまではいきませんが、良い状態で迎えられそうです。

 

 文字ばかりでは寂しいので、今日撮った写真を添付します。

IMG-0694.jpgIMG-0695.jpgIMG-0696.jpgRoad to 2019&2020は、今回までとし、次回からは再び日常管理を綴っていきます。