芝生観察日記の第八十四話です。
平成30年10月29日(月)
<~ Road to 2019&2020 ~>
10月27日(土)、来年のラグビーワールドカップに向けて最後のテストマッチと位置づけられた「キヤノン ブレディスローカップ2018」が開催されました。
それは、舞台の中心となる芝生にとっても大きな意味合いを持ちます。今年6月に張り替えたハイブリッド芝が世界レベルの屈強な選手たちにどれだけ通用するのかを計る最高の場となりました。
<6月 キリンチャレンジカップ>
<ブレディスローカップ>
今回の試合では、来年に向けて、様々な組織、部署による課題の抽出や試験が行われましたが、我々芝生部隊としてはハイブリッド芝の状態と共にフィールド外周の周辺区域を天然芝で拡張するというミッションがありました。
昨年行われた日本代表vsオーストラリア代表の試合は、ティフトン419のビッグロールで周辺区域を拡張しましたが、今回は来年の本番を見据えてインゴール部分にはフィールド内と同仕様のハイブリッド芝を採用しました。また、降雨により水溜りができないように排水対策も講じています。その甲斐あって、今朝方に降った雨でも水は溜まらず、一つのミッションにおいて成果を確認できました。
また、上の写真は、6月に行われたサッカーの日本代表戦時の状況と今回の状況比較です。サッカーの場合は、フィールドの周辺区域は全て人工芝ですが、ラグビーの場合は規定の周辺区域は天然芝で拡張し、その周りを人工芝で拡張しているため少し雰囲気が違います。
今回の試合に向けた準備作業もワールドカップ組織委員会より提示されたマニュアルに基づき、本大会仕様のゴールポストやライン、そして芝の刈高やカットラインで仕上げました。
また、本大会に向けて組織委員会では、各会場の芝生が激しい使用に耐えられるのかを確認するため、イギリスの調査会社による「スコアプレイ」という芝生の調査が行われました。芝生の強度やグラウンドの硬さ、排水性など20項目に及びます。結果は、全ての項目で基準値をクリアしましたが、課題も見つかりました。この調査の結果を見て、試合時のダメージが目に浮かびました。
そして試合の方ですが、国内で開催されたラグビーの試合における最多入場者数46,143人の観衆が見守る中で、世界最高レベルの試合に場内は大いに盛り上がりました。結果は、今年度のブレディスローカップを既に保持しているニュージーランド代表が37対20でオーストラリア代表に勝利して、3連勝という形でノーサイドとなりました。
試合後のフィールドは、スコアプレイのデータからも想像がつきましたが、ハイブリッド化したことで深く抉れるような傷はなく、表面の芝生が削り取られるような傷が散在しました。
要因としては、天然芝の根と人工芝パイルの絡み合いが甘かったようです。ハイブリッド化のタイミングで芝種がティフトン419からセレブレーションに変わったことで一年という短期間で張り替えることができたので、いくつかの課題が見つかり、逆に張替えが来年でなく、今年で良かったという感覚もあります。これから一年掛けて日産スタジアムの環境に適応させていくことが今後の課題です。
試合後、両チームの選手からは、「ピッチのおかげで、私たちが求めている速い展開のラグビーが可能になった」、「ピッチは世界一級品だと思う」などハイブリッド芝への賛辞がありました。
我々的には選手の感覚とは裏腹で荒れたフィールドに懸念を抱いていましたが、少しばかり救われた思いと共に、本大会までにはベストな状態に仕上げるという強い決意が沸いてきました。
その前に今週末のJリーグに向けて回復させることが先決です。選手に迷惑はかけられませんから。