芝生観察日記の第九十二話です。
令和元年12月15日(日)
<~ Road to 2019&2020 ~>
ラグビーワールドカップ2019™ 第三報
歴史的な日本代表のベスト8進出に沸いた翌日、ホッとする間もなく我々の視線は10月26日、27日の準決勝戦と11月2日に控える決勝戦に切り替わっていました。
しかし、天候が邪魔をします。10月14日以降、天気は連日曇や雨の日が続き、気温も20℃を割る日が続くようになりました。低温、日照不足、多雨といったバミューダグラスの生育にとって3悪が揃い、期待していた新種のバミューダグラスには病気が出て生育が鈍化し、試合によるストレスからの回復にブレーキを掛ける形となりました。
そのため、決勝戦を最高の状態で迎えるという目標を掲げていたのですが、コンディション的には厳しい状況が続きました。
そして迎えた25日のキャプテンズラン。今回の大会で辛かったのは、大会日程として土日2日続けて試合が開催されるため、前日の金曜日には4チーム(4か国)がサッカーで言うところの公式練習にあたるキャプテンズランを行うことでした。
その日は、朝方から大雨となり、昼過ぎまでに80㍉を超え、ピッチ上にも水が浮く状態でした。
スタンド大屋根に設置されたカメラからの映像
キャプテンズランの順番は、ベスト4に勝ち上がったイングランド、南アフリカ、ウエールズ、ニュージーランドの各代表でした。ニュージーランド代表は練習をキャンセルし、南アフリカはキッカーを中心とした10名程度の軽い練習であったため芝生へのダメージはさほどありませんでした。しかし、イングランドとウエールズは上の写真のようにピッチ内に広範囲な水溜まりがあるにも関わらず水しぶきを上げながらフルコートを使って紅白戦を行い、試合以上に荒れた印象を受けました。そのため、翌日の試合に影響するのではという不安もありましたが、手を加える時間もなく、翌日を迎えました。
10月26日、準決勝1試合目、イングランド代表VSニュージーランド代表の試合が68,843人の大観衆の下で行われました。
試合はイングランド代表が、優勝候補筆頭で大会3連覇が懸かったニュージーランド代表を19-7で破り、2007年以来3大会ぶりに決勝戦に駒を進めました。
当日は、13日の試合より2㍉刈高を上げて20㍉で迎えました。まだまだライグラスは細く、バミューダグラスの勢いに押されている状況でした。前日に雨の中でキャプテンズランを行い、試合開始前から芝生にストレスがかかっている様子が覗われました。
9月の追い蒔き前に事前作業として行ったサッチング掛けによりバミューダグラスの密度をすいた影響で、試合直前に行った芝生の調査でも芝生の強度が低下しているという数値が出ていたことに加えて、天候不良の影響も重なり芝生の強度は理想には及ばない状況でした。
上の写真は試合前のウォーミングアップ後の状況です。試合開始までの限られた時間の中で飛び散った芝片をスタッフ総出で回収するとともに、傷口の補修を行います。
ウォーミングアップまでは小さい傷が多く、芝片が飛び散る程度でしたが試合後には30cm近い傷も所々に見られました。しかし、ハイブリッド芝が効果を示して、表面の芝が剥がれた状況で、踏んでも違和感ありませんでした。
10月27日、準決勝2試合目、ウエールズ代表VS南アフリカ代表の試合が、この日も67,750人の大観衆の下で行われました。
スタンドレベルからは芝生の傷みは見て取れないと思いますが、グラウンドレベルで見ると痛々しい傷が散乱していました。
試合は、16-19で南アフリカ代表がウエールズ代表を破り、2007年に続いて3回目の決勝戦進出を決めました。
試合後のダメージは、前日の試合以上に大きな傷となりました。これがサッカーのワールドカップだったら問題になったと思いますが、ラグビーはボールを転がすのが主たる競技ではないので大会中に手を加えることはありません。傷口を保護するように目砂を入れておきます。
試合の後は、芝生コンサルとの状況確認を兼ねたミーティングを行います。傷自体は目立つがラグビーという競技特性を考えると全く問題はい。WRからの苦情等も出ていないというコメントをもらいました。
決勝戦までは5日ほどしか時間がないため、できることは限られています。少しでもライグラスを太らせるため吸収性の良い肥料を散布してあげること。そして、これまでの試合で踏み固められたグラウンドはハイブリッド芝の機能も影響して硬くなっていたため、バーチドレンを掛けてあげることでワーキングメンバーの総意を得ました。
そういえば、この日は日頃から芝生に関する情報交換をし、お互い切磋琢磨している全国の有名なグラウンドキーパー達が手伝いに来てくれ、コンサルを含めたミーティングにも参加し、積極的な意見交換が行われました。皆さん、それぞれのスタジアムでJリーグベストピッチ賞を受賞している大ベテランです。
11月2日、迎えたFINAL。イングランド代表VS南アフリカ代表の試合が70,103人という日産スタジアムの観客最多動員数を記録する大観衆の下で行われました。
天気は快晴。気温も20℃を超えて穏やかな陽気でした。芝生は1か月半におよぶ長期間で5試合を消化し、さすがにスタンドレベルから見ても芝生の疲れが判る状況でした。
試合は、南アフリカ代表が、イングランド代表を32-12で破り、3度目の優勝を飾りました。
試合後のダメージは言うまでもありません。が、長い1か月半におよぶ大会が終わり、「喜怒哀楽」の感情が入れ混じる日々が続きましたが、ようやくホッとしました。
2002年のサッカーワールドカップでも多くの事を学びましたが、この大会でも多くの事を学びました。
サッカーを起源に、同じイングランド発祥のスポーツですが、その文化には大きな違いを感じました。大会はWRのビル・ボーモント会長、そしてラグビー組織委員会、嶋津事務総長のコメントからも成功という表現こそありませんが、良い意味で記憶に残る大会だったと評価されています。
ラグビーワールドカップは終わりましたが、年内にもう一つの大仕事が残っています。
8月17日のセレッソ大阪戦以降、ワールドカップの独占使用期間だったため、我らがF・マリノスもホームゲームをニッパツ三ツ沢球技場で開催していました。優勝決定戦となる12月7日のホーム最終戦に向けてワールドカップで荒れたグラウンドを整備し、決戦を後押ししなければなりません。
8月17日のセレッソ大阪戦はコンディション不良でチームをサポートできませんでした。我々も歯痒い思いでしたので、最後にホームスタジアムとしてしっかりバックアップして今年を終えたい。
その過程は、次回お伝えします。
大会期間の1か月半を含む、ワールドカップの舞台裏はまだまだ語り尽くせないことばかりですが、3回にわたるブログにお付き合いいただきありがとうございました。