芝生観察日記 第77話

芝生観察日記の第七十七話です。

平成28年12月20日(火)

 

  一昨日、多くの感動と共に「FIFAクラブワールドカップジャパン2016」が閉幕しました。

  皆さんご存じの通り、決勝戦のM8ではヨーロッパチャンピオンのレアルマドリードが開催国代表として参加した鹿島アントラーズを延長戦の末に4対2で破り、優勝を勝ち取りましたね。

  途中、主審の判定で試合の流れが変わりました。その裁定を巡っては世界的な論議となっており、未だにネットを賑わしていますが、そちらは専門家にお任せするとします。

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 場内は多くのお客様で埋まり、決勝戦の公式入場者数は日本で開催されてきたクラブワールドカップとしての最多記録となる68、742名を記録しました。

M8公式入場者数①.jpg

 18日は、決勝戦の前に3位決定戦が開催され、南米チャンピオンのアトレティコ・ナシオナルが北中米チャンピオンのクラブアメリカをPK戦の末に破って、本大会の3位となりました。誰もが想定しなかった南米チャンピオンの3位決定戦への登場ですが、試合は決勝戦とは異なり、大会の規程によりPK戦に突入して4対3という結果でした。

 ここで我々が一番想定外だったのは、PK戦になったことです。

 準決勝戦(M6)が終わった後、開幕戦の他、公式練習を含めてゴール前は激しく荒れてしまい、芝生が薄くなってしまいました。

 スタジアム内で観戦されるお客様は勿論、世界で約180の国々の方が決勝戦を観戦します。

スタジアム内には4本のケーブルで吊った「スパイダーカム」が設置されており、上空からフィールドの隅々まで鮮明に映し出されるため、粗を隠したくてもなかなか誤魔化しは効きません。

ゴール張替え前①.jpg

    

【芝生張替え前】

ゴール張替え後①.jpg

【芝生張替え後】

 ゴール前の芝生が薄くなるのは当たり前のことです。しかし、世界一を決める舞台で芝が薄いことでボールがイレギュラーしたなんてことが起きて点数が入ってしまったら選手に申し訳ないので我々も限られた時間の中でなるべくベストを尽くしたいと思っています。上の写真は、M6の翌日に荒れ果てたゴール前の芝生をM7とM8に向けて張り替えた状況です。

 張り替えた芝は、通常の試合で選手が走ったり、蹴ったりする分には特に問題ありませんが、今回想定外だったPK戦はそうではありません。

 一瞬の判断で、ゴールキーパーが踏ん張る時の踏圧はそうとうな力です。運悪く張り替えた芝生の継ぎ目を、スパイクのポイントが噛んでしまうと稀に芝生が捲れてしまうことがあります。

 今回はその運が悪いケースが大事なM7のPK戦で発生してしまいました。蹴ったボールに飛びついたゴールキーパーの足元の芝生が捲れてしまい、その後ゴールキーパーが足で踏んで均していた映像が世界に配信されてしまいました。みなさんは気付いたでしょうか。

 冬季の張替えは凍結や霜の影響に配慮しなければなりませんが、今回は時間がない中で我々のグラウンドスタッフも良く対応してくれたと思います。若干の技術的な問題はありましたが、この経験を今後に活かしていきたいと思います。

 試合が終わり、煌びやかな銀テープが舞う表彰セレモニーの後、表彰式で使用したステージにFIFAの関係者を始め、この大会に携わった多くのスタッフが集い、大会成功の喜びを分ち合いました。

 その片隅で、選手入場の際、先頭に立って入場するFIFAのジェネラルコーディネーター(GC)から我々に向けて感謝の言葉がありました。「プロフェッショナルな仕事に感謝」、格好悪いですが通訳さんから聞いた言葉です。

 今回、横浜を担当したGCは、リオデジャネイロオリンピックのサッカーファイナルを担当したFIFAのGCの中でもトップの方でした。

 今年は地球全体が抱える気候変動により春から異常気象に見舞われ、芝生を管理する者としては難しい一年でした。生きもの相手なので簡単な年などありませんが、その中でも今年は思うように行きませんでした。そんな中、今年もベストピッチ賞を逃した日産スタジアムに対して、謝辞を贈ってくれたGCに感謝したいと思います。今回も、世界で我々しか経験できない貴重な経験をさせてもらいました。10日間で4試合をベストな状態という厳しいミッションでしたが、多くを学びました。

 今年は、まだ24日と29日に天皇杯が残っています。

24日は準々決勝、横浜F・マリノス対ガンバ大阪戦が行われます。マリノスが勝ち進んでも29日の準決勝は、大阪のヤンマースタジアム長居に行ってしまうので残念ながらマリノスが日産スタジアムで試合をするのは24日が最後となり、我々のモチベーションは低めですが、誰が使うとしても手は抜きません。最後までベストを尽くしていきます。

  FCWC(FIFAクラブワールドカップ)は来年、再来年とUAEで開催される予定です。

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 また、日本で開催されることをみなさんも期待してくださいね。

 また次回をお楽しみに。