芝生観察日記の第七十九話です。
平成30年6月30日(土)
2002年6月30日、今からちょうど16年前の今日、ここ日産スタジアム(横浜国際総合競技場)では「2002 FIFAワールドカップKOREAJAPAN」の決勝戦が開催されました。そして、今年は日産スタジアムが横浜国際総合競技場として開場してから20年という節目の年となります。
この間、「芝生とっておきの話」や「芝生観察日記」としてスポーツターフに関する話題を提供してきましたが、今後は日本、そしてここ横浜で、来年、再来年と続けて開催される「ラグビーワールドカップJAPAN2019」や「東京2020オリンピック」に向けた我々グリーンキーパーの新たな挑戦について「~ Roadto2019&2020~」として管理上のことや試合に向けた準備等について綴っていきます。もちろん、これまで通りの視点でも情報を提供していきます。
まずは、来年のワールドカップに向けて横浜市ではラグビーワールドカップ組織委員会からの提案を受けて、これまでのティフトン419+ペレニアルライグラスという天然芝だけの組み合わせから天然芝と人工芝を組み合わせたハイブリッド芝へ変更することとしました。
これは既に新聞報道等でも取り上げられており、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。ハイブリッド芝と言っても方式は多々あり、大きく分けると3パターンほどに分類できます。
一つ目は、土壌改良タイプです。これは芝生の根が生育する土壌自体をファイバー(繊維)で強化するもので、日本では岩手県の「釜石鵜住居復興スタジアム(仮称)」で採用されました。
二つ目は、スティッチタイプです。既存の芝地にソーイングマシンという機械を使い、人工芝パイルを直接打ち込むことで芝生の根を強化します。このタイプは、ヨーロッパ発祥で、ハイブリッド芝の中で最もメジャーなタイプであり、ヨーロッパでは主流となっています。日本では「ノエビアスタジアム神戸」がいち早くこのタイプのハイブリッド芝を導入し、既にJリーグやラグビーの日本代表戦でも使用され、見事なピッチコンディションでした。
三つ目は、カーペットタイプです。近年人工芝のグラウンドがどんどん増えていますが、その方式を天然芝に流用したものです。基布(バッキング)に編みこまれた人工芝パイルに芝生が絡みつくことで強化します。今回、日産スタジアムで採用されたものは、このカーペットタイプです。
ハイブリッド芝に関する基礎知識はこれくらいにして、先月5月30日に開催されたサッカー日本代表がワールドカップの壮行試合として行ったキリンチャレンジカップの翌日から開始されたハイブリッド芝への張替え工事についてお伝えします。
試合翌日から20年近くに亘って様々な夢の舞台として足元を支えてきた芝生の撤去作業が行われました。コンサート開催に伴い一時中断したものの、横浜市のレガシーである日産スタジアムの芝生は無駄にはできません。横浜市では市内の学校や保育園の園庭のほか、公園に移設してその価値の継承を図り、市民のみなさんと余生を過ごします。
芝張り自体は26日から30日までの5日間の工程で行われました。梅雨だというのに連日晴天で、6月に梅雨明けという記録的な天候にも恵まれ予定通り一日あたり約1,600㎡の作業は進みました。
ハイブリッド芝の育成が行われていた埼玉県の畑より一便目の芝生が届きました。今回の芝生は1m×10mのビッグロールです。通常は76cmが一般的ですが、今回はやや大判です。
今回の工事用にアメリカから輸入したインストーラを使いビッグロールの芝生を広げていきます。油圧式アームでビッグロールの心棒を鋏み、コロコロとロールを転がしながら芝生を伸ばします。
ロールとロールの継ぎ目をコンクリートカッターで切り放していきます。(写真①)切って張り合わせた状況は非常に綺麗に仕上がりました。(写真②)
横浜仕様のハイブリッド芝の断面です。基布(バッキング)から立ち上がったパイルに芝生の根が絡みついているのが判りますか。
ハイブリッド芝ロールの裏側です。格子状の基布(バッキング)が判りますか。
ローラーで転圧して面を仕上げていきます。
6月30日、予定通りに全面の芝張りが終わりました。
スタンドから見下ろすぶんには全然違和感はありません。ちなみに今回のハイブリッド芝への変更にあたり、これまで使用してきた「ティフトン419」から新たに「セレブレーション」という芝種に変更しました。芝生の種類的には同じバミューダグラスですが、耐陰性や耐寒性に加えて擦り切れ抵抗性に優れた性質を持っています。日本のスタジアムで採用されたのは初めてですが、ブラジルワールドカップの決勝戦会場だった「マラカナンスタジアム」で使用されている芝生です。
今回のプロジェクトは、横浜市内の造園業者さんを中心に芝生の専門業者さんなど複数社の協力により進められました。中には、ハイブリッド芝のメーカーであるオーストラリアのスタッフも施工指導にあたり、英語と日本語が飛び交う賑やかな作業現場でした。
チームワークも良く、予定通り進められた仕事は「Goodjob」でした。
今後は、我々がこの新たなハイブリッド芝の管理を担います。日本のスタジアムで初めて採用されたハイブリッドシステムとセレブレーションの組み合わせは世界にも例がありません。何が正解かは手探りとなります、世界一を決める舞台の芝生を管理できることに感謝しながら新たなチャレンジをしたいと思います。
ハイブリッド芝に変更して最初に行われる試合は、7月28日に開催されるJリーグ、横浜F・マリノス対清水エスパルス戦となります。
期待と不安が交錯する管理の状況を引き続きお伝えしていきます。