芝生観察日記 第95話

芝生観察日記の第九十五話です。

令和二年6月3日(水)

<~ Road to 2019&2020 ~>

 Jリーグの再開日程が発表されました。

 日産スタジアムでは、2月23日に開催された開幕戦以来、新型コロナウイルスが猛威を振るい、政府による感染拡大防止策として緊急事態宣言が発出されたのを受けてJリーグも開催を見合わせていました。

同時に、東京2020オリンピックも延期となり、日本だけでなく世界中で外出自粛を余儀なくされています。

 しかし、Jリーグが無くても、オリンピックが無くても芝生は伸びます。そして、いつ再開されても選手が最高のパフォーマンスができるように芝生の管理に滞りはありません。

 とはいえ、緊急事態宣言下で不要不急の外出が制限されていたため、我々の出勤も交代勤務となり、ひたすら冬芝から夏芝へ移行させるトランジション作業を厳選して行いました。

1_2月23日ガンバ戦.jpg

 昨年のラグビーワールドカップで傷んだピッチも、2月23日の開幕戦は見事に冬芝に覆われて濃緑の緑で美しいピッチに回復しました。

 当初は、この試合の翌日から7月23日に行われる予定だった東京2020オリンピックのサッカー競技に向けて緩やかにトランジション作業を進めていく予定でした。しかし、Jリーグが中断し、再開の見込みが立たない情勢となったため、急遽計画を変更して強制的なトランジション作業をすることとしました。

 判りづらいと思いますが、2月末から5月末にかけて月毎の芝種のトランジション状況をお見せします。

2_2月メイン全景.jpg2_2月北コーナー接写.jpg

2月末 メインスタンド2階部より全景   芝生接写

3_3月メイン全景.jpg3_3月北コーナー接写.jpg

3月末 メインスタンド2階部より全景   芝生接写

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4月末 メインスタンド2階部より全景   芝生接写

5_5月メイン全景.jpg5_5月北コーナー接写.jpg

5月末 バックスタンド2階部より全景   芝生接写

 2月の段階では殆どが冬芝でした。3月にはトランジション作業や気温の上昇により少し夏芝が芽を出し始めます。4月になると過去に経験のない作業にチャレンジした結果、冬芝が衰退して夏芝が目立つようになりました。そして、5月になると初夏のような気温と強い日差し、そしてこれも初めての試みとなるシートによる保温やアンダーヒーティング稼働という例年はできない取組みによって夏芝が急激に拡がり始めました。

 写真では伝わり辛いのですが、冬芝から夏芝に移行する経過で、緑度の濃淡があるの判りますか。

 ここからはどんな作業をしたのか、トランジション作業の様子をご紹介します。

6_2月27日コアリング(2).jpg6_2月27日コアリング2.jpg

 2月末に行ったコアリングです。外径26㍉(内径17㍉)とかなり太い穴を抜きました。12月、1月に続いての実施です。カーペットタイプのハイブリッド芝にはNGと言われているのですが、我々が抱える課題をクリアするには、、、、色々賛否はありましたが思い切ったチャレンジをしちゃいました。

7_2月バーチドレン.jpg7_3月苗補植.jpg

 お馴染みのバーチドレン掛け(左)は、グラウンドが硬いと評されるハイブリッド芝の硬さの改善、発根促進のほか、透水性も改善します。3月には、例年5月、6月辺りに実施している夏芝(セレブレーション)の苗植え(右)を行いました。ティフトン419の苗に比べ、茎が太いため作業も思考錯誤でした。

8_2月シート.jpg8_4月シート.jpg

 そして、シート掛けです。2月から5月初旬まで殆どこのシートに覆われていました。我々もピッチ全面を見る機会がなかなかありませんでした。通常は、11月から2月くらいまで、冬芝を霜や凍結から護るために設置するものですが、今年は、夏芝の萌芽と成育を促進させ、トランジションを早期に進めることが狙いでした。3月、4月になると気温が上がり、シートの下で芝生が蒸れて病気が出るリスクも承知の上で、必用な対応をして臨みました。

9_5月目砂散布.jpg

 5月には、夏芝の地上茎(匍匐茎)を伸ばすため目砂散布を2回実施しました。ハイブリッド芝にはNGなのですが、夏芝特にセレブレーションの生育を調整する上で目砂は有効とされています。この辺りが難しいです。

10_5月匍匐状況.jpg

 そして、これが現状です。冬芝は殆どなくなりました、夏芝が地上茎(ランナー)を伸ばして密度を増やしています。夏芝は、地上茎(ランナー)と地下茎(ライゾーム)が幾層にも重なりあってマット状のクッション層を形成して強く、弾力のある芝生になります。今はまだ、絶対数が足りず、下の砂が透けて見えます。

 現在芝の刈高は10㍉。冬芝が優先している間は、ゴルフ場のグリーン並みに8㍉で刈っていました。

 Jリーグの再開が7月4日に決まったので、残り1か月で完全な状態に仕上げていきます。

 懸念されるのは、梅雨入りです。強い日照と25℃以上の気温が必須な夏芝にとって、日本の梅雨は決して生育適期とは言えません。この先は、シート掛けやヒーティングも使えないため日常の管理でベストを尽くしていくだけです。

 ACLや開幕戦のほか、この間に及ぶトランジション作業など芝生観察日記でお伝えしたい情報は山ほどありましたが、緊急事態宣言下で、様々な場面で自粛が求められていたので書き出しては止め、の繰り返しでお蔵入りも何話かあります。しかし、東京2020オリンピックに向けた芝生作りは我々の記憶だけで留めておくのはもったいない。是非みなさんにもお伝えしたいと思い、Jリーグの再開が決まったことを機にまとめてお伝えしました。

 スタジアムのお問い合わせフォームに、芝生観察日記のアップを望まれる声も寄せられました。「こんな時だからこそ芝生の生育具合を見て、心を穏やかにしたい」大変励まされました。

 引き続き、報告していきますね。次回をお楽しみに。