芝生観察日記の第百十三話です。
令和二年11月24日(火)
<~ Road to 2019&2020 ~>
ここ一週間、最高気温が20℃を超える陽気が続いており、19日には25℃を記録しました。実に9月下旬並みの気温です。11月下旬に25℃を超えるのは観測史上初めてとのことです。
明らかに日本の四季が変わっていると実感します。毎年のように変化しているので、「例年のように。。。」という例えを使いづらくなりました。
さて、14日に行われたJリーグは、ご承知のとおりF・マリノスがホーム最終戦を見事に大勝で飾りました。試合後のピッチは、両チーム合わせて8点が入る大味な試合でしたが、冬芝の成長により目立った傷もなく、終えることが出来ました。が、唯一懸念されるのはアウェイ側のゴール前です。
写真では黒ずんでいるものの、傷みの度合いは分かり辛いかもしれません。しかし、試合中ゴールキーパーが足元の芝生を踏んで固める場面が何回か見られました。
今年は、梅雨が長く、秋も不順な天候が続いた影響で全国的に見てもゴール前の状況が厳しいスタジアムが散見されました。
日産スタジアムも同様です。元々、アウェイ側のゴールは東南側に位置している関係で一年を通じてホーム側より陽当たりが良くありません。
上の写真は、朝9時頃の状況です。この季節、10時を過ぎないとこの付近は陽が当たりません。そして、午後2時前には再び日陰となるため、一日3~4時間程しか陽が当たりません。冬至には2~3時間となり、場所によっては全く陽が当たらない期間が1ヶ月ほどあり、芝生が生育するには厳しい環境です。
この日照問題は、LEDやグロウランプのようなライティングシステムを有しない日産スタジアムでは、人工地盤と同様に芝生を育成する環境として開場以来の大きな課題です。特に、気温と共に日照時間に敏感な夏芝の育成には、致命的な課題です。
日産スタジアムは一昨年ハイブリッド芝に張替えを行いました。以前のブログでもハイブリッド芝は不死身ではないと書きました。ハイブリッド芝のパイルは全体の3%に過ぎません。それ以外の97%は天然芝です。つまり、97%の天然芝がしっかり生育していないとハイブリッド芝としての機能を十分発揮できません。
今年は、新型ウイルスの影響で利用は少なかったものの、その分Jリーグの日程が過密なスケジュールでした。特に、天候不良だった9月の試合が多かったことから環境的に劣るアウエイ側ゴール付近の芝生に過度なストレスがかかり、夏芝が十分に生育できないまま冬芝の種を追い蒔きしました。表面上は冬芝で覆われていたため、スタンドレベルや映像では判らなかったと思います。しかし、ベースの夏芝がしっかり生育できていないため、根や地下茎が人工芝のパイルや基布に絡みつかず、普通の天然芝と変わらない状態なので試合後には土が露出して裸地化する状態となりました。そのため、来年の開幕に備えて昨日早々に芝生の張替えを行いました。
張替えるため剥がしたゴール前のハイブリッド芝の裏側です。格子状の人工芝の基布下には殆ど根が下りていません。これでは、強い芝生にはなりません。
張替えは、約10の作業工程がありますが、その中のいくつかご紹介していきます。
まずは、張替える場所の芝生をタングステンチップが付いたカッターで細断して、運び出し易い大きさにします。天然芝であれば人力の押切ナイフで切れるのでハイブリッド芝は一手間余計に掛かります。
次に、細断した芝生を人力で運び出します。人工芝基布の重量も加わるため工程の中で最も重労働です。芝生を剥ぎ取ったら締め固まった砂を小型の耕運機で耕し、日産スタジアムで芝生を張替える際の三種の神器としている、化成肥料、発根促進剤、腐植酸の粒剤を散布します。
その後、水で締めてランマープレートを使い砂を締め固めて整地していきます。
芝生を張る前には、周囲の高さと合わせるため水糸を張って丁寧に芝張り盤の高さを整えます。
そして、別の作業部隊が新横浜公園内の圃場で育成した芝生を切り出し、運搬してきたものを、スタジアム部隊が手際よく張っていきます。
今回、張替えに使用した芝生は、ハイブリッド芝ではなく、夏芝に冬芝を追い蒔きしただけの純粋な天然芝です。理由は、先の通り環境的にハイブリッド芝を張っても十分に機能が発揮できないと判断したため、必用に応じて簡易に張替えができる芝生にしました。
芝生を張り終えたところで、ローラー転圧を行い、芝生の目地に砂を入れて、最後はタップリ水を撒いて終了です。今回は約40㎡の大きさでしたが、時間的には5時間ほど掛かりました。
同じように管理してきた圃場の芝生ですが、冬芝の生育が少し劣っていたため緑度の差はありますが、来年のJリーグ開幕までには揃うように管理していきます。
少し長くなりましたが、今回お伝えしたかったのは、「ハイブリッド芝は決して不死身ではない。」このことを改めて発信したいと思います。
天然芝が十分に生育できる環境に加えて、ハイブリッド芝特有の管理が実践でき、その上で過度な利用によるストレスが掛からないこと。このことが、2年間管理してみて夏芝をベースとしたハイブリッド芝を機能的に維持する条件であるように感じます。
管理手法を確立するにはまだ道半ばです。試行錯誤は続きます。