芝生観察日記の第百二話です。
令和二年8月 7日(金)
<~ Road to 2019&2020 ~>
8月1日に待望の梅雨明けが発表されました。記録的な長梅雨で、もう雨は要らないと切に願っていましたが、いざ梅雨が明けてみると連日の猛暑となり、今度は乾燥害が心配で水撒きに追われる日々です。
梅雨が明けて、ようやく夏だと喜んでばかりはいられません。今日8月7日は「立秋」。暦の上では秋です。ヒグラシの鳴き声、赤とんぼ、屋根付きスタジアムの宿命でもある日照時間の減少と、秋が近づいているのを感じながら芝生にとっては重要な夏場の管理作業を行っています。
前話でも書きましたが、夏場の管理作業により如何に夏芝に体力を付けるかが来年の状態を左右すると言っても過言ではありません。
今月、日産スタジアムではJリーグが3試合予定されています。この試合と試合の合間を縫って重要な作業を計画的に進めて行きます。
とはいえ、来年のことだけを考えている訳ではありません。明日行われるJリーグに向けてハイブリッド芝の特徴でもある、表面硬度の改善を図るため4日にバーチドレンを掛けました。
サッカーに求められる表面硬度の基準は、専用のインパクトテスターで20-80Gmと以前のブログで書いていますが、今回バーチドレンを掛ける前に測ると100Gmを超える状況でした。
芝生の刈高10㎜に加え、猛暑により乾燥気味だったため、通常よりも高かった可能性はありますが、普通に歩いた感触でも硬さを感じる状態でした。
そのため、バーチドレンの貫入深度をいつもより深めの15㎝に設定し、より土壌を解すことを期待しました。いつもより深めの設定にしたことで、芝生表面が凸凹と浮き上がる状態となるため、翌日にはローラー転圧を行い表面の平坦性を確保しました。
転圧後に測った表面硬度は、76Gmと基準値をクリアしました。試合は刈高を12㎜まで上げると、芝生の密度も若干ですが増え、散水により乾燥が癒えれば基準値をクリアしたまま試合を迎えることが出来そうです。
写真は距離感が多少違いますが、先週実施したサッチング後よりも、葉の密度が増え、緑度も若干向上しました。
しかし、長梅雨の影響は思ったよりも深刻だったようで、サッチング後の回復具合が想定を下回りました。長梅雨による日照不足で光合成が出来ず、芝生自体が蓄えていた養分を消耗し、いざ梅雨が明けて、勢い良く伸びようと思っても体力不足で動きが鈍いのかもしれません。
今後は、体力を回復させるため肥料を多めに施す必要がありそうです。
明日の試合は、前回行われた時より芝生の傷みは軽いのではないかと想定しますが、どうなることか。
また、試合後の状況を報告します。
「新横浜公園四季折々の生きもの観察会」(協賛:株式会社春秋商事)今年度の1回目を開催しました。
この観察会は、鶴見川の多目的遊水地として水と緑が豊かな新横浜公園と生息する多種多様な生きものの理解を深めていただく機会として、年5回を予定しています。
今回は、セミが幼虫から成虫になる様子(羽化)と、木にしかけたトラップに集まる昆虫等の観察を行います。
講師はNPO法人鶴見川流域ネットワーキングさんです。(以下npoTRネット)
まずは室内で、「セミの抜け殻標本の作り方」を教えていただきました。参加のみなさんは、そおっとセミの抜け殻を持ったり、ピンを慎重に刺したりして標本を作ることができました。
npoTRネット横山さんから標本の作り方を教わりました
セミの抜け殻の置き場所を決めています
観察に出かける前に、今回のために仕掛けてあるトラップの作り方を教わりました。材料は、バナナ、ストッキング、ドライイースト、チャック付きの袋等を使いました。空気を抜き、時間をおいて発酵させるのがポイントです。
npoTRネット阿部さんからバナナトラップの作り方を教わりました
それでは、日産スタジアム内のお部屋から出て観察に行きましょう。園地のトラップ仕掛け場所に向かう途中に「雷探知警報器」が鳴ったため、高架下に避難をしました。安全を考え、観察の順番を変えて、周りに避難のできる建物などがあるセミの観察場所へ先に向かうことにしました。
高架下へ避難
セミの観察場所では、下に落ちている枝にもいるかもしれないので、足元にも注意して探しました。地中からでてきたと思われる穴をいくつか見つけました。そして、木の幹を見るとミンミンゼミの幼虫が登っています。私たちの頭上なので、地面から2mくらいの高さにいました。今年は梅雨が長く、雨が多かったことなどが影響したためか、例年のこの時期としてはセミが少なめでした。これからたくさん出てきてほしいですね。
セミの観察場所
ミンミンゼミの幼虫が幹を登っていきます
次はトラップ仕掛け場所に向かいます。日が落ちて空はすっかり暗くなりました。トラップにどんな虫が集まっているか、どきどき!わくわく!しながら歩いて行きます。
この写真の中にカブトムシは何匹いるでしょう?(正解:4匹)
「いたー!」「こんなにカブトムシを見られたの初めて!」とみなさん大変喜んでいました。カブトムシの雄、雌、10匹以上を観察することができました。
次回の四季折々の生きもの観察会は8月29日(土)開催です。この日は、新横浜公園の水辺の生きものを観察します。皆様のご参加をお待ちしています。
なお、今回観察会のために特別にトラップ設置を行いましたが、普段は無断でのトラップ設置は禁止となっております。また、公園内で捕まえた昆虫は、放してあげるなどの配慮をお願いいたします。
【追記】
観察会中に見られなかった生きものの様子をご紹介します。また、新横浜公園に生きものを観察に来てくださいね。
シロテンハナムグリ
ノコギリクワガタ
アブラゼミの幼虫
ミンミンゼミの羽化
芝生観察日記の第百一話です。
令和二年7月29日(水)
<~ Road to 2019&2020 ~>
22日の夜に行われた横浜ダービー後の状況をお伝えします。当日、ブログを書いている時間帯は新横浜公園周辺の上空に線状降水帯が発生して、激しい豪雨の中でした。予報では、試合の時間帯も雨予報でしたが、天気は急速に回復して午後には快晴とまではいきませんが、強い日差しが照り付けて気温、湿度共に上がり、汗ばむ中での試合となりました。超が付くくらい排水性に優れた日産スタジアムのピッチは、急速にウエットからドライに変わっていきました。
当日の芝刈高は、前日に12㎜で刈ったまま迎えました。試合前の表面硬度は81Gm。基準値を若干上回りましたが、コンディション的には全く支障のない範囲でした。
試合後は、こんな感じの傷が全体に散乱しました。FC東京戦の時と同様に夏芝特有の傷でした。地表を這うランナー(匍匐茎)をスパイクで引っ掻くイメージなので毛羽立ったように見え、画面上は相当荒れた印象を受けると思いますが、刈込めば綺麗になり、天気さえ良ければ1~2週間で傷は回復します。
また、これだけ連日雨が降り、当日も60㎜近い雨が降る中、通常は地盤が緩んで選手が踏み込んだ箇所は凹んで凸凹になりますが、さすがハイブリッド芝は根を補強しているため試合後も表面は滑らかでした。
試合後の状況はこのくらいにして、ようやく梅雨明けの便りが聞かれるようになりました。あと少しの辛抱です。
しかし、今年の夏は短そうです。限られた時間を大切に、そして有効に管理に反映させなければなりません。この夏から秋にかけた状態が来夏の状態に繋がります。
まずは、梅雨明け前の準備作業です。刈カスの他、病気や日照不足、その他の自助作用で篩い落とされた葉(サッチ)が表面に堆積しているため、サッチングを行いました。サッチが過剰に堆積すると病虫害の温床に繋がるため適宜除去しなければなりません。
今回は、3連芝刈り機(3連モア)のユニットをバーチカルユニットに変更したタイプの機械でサッチングを行いました。各ユニットにはタングステンチップの刃が付いた45枚のブレードが装着されており、そのブレードが高速回転で芝生を掻き上げて、サッチを除去します。
作業前後の写真です。表層に堆積したサッチの除去だけでなく、芝生の密度も減少しています。夏芝は、適切な時季にランナー(丸で括った部分)を切ることで、そこから新たな芽が出てきます。回収されたサッチは、刈カスと違い茶褐色に枯れた葉なのが分かります。
長梅雨による日照不足と多雨で、芝生が受けているストレスは計り知れません。この時季に更新作業を行うことは、リスクを伴います。燦燦と陽光を浴びる中で勢い良く生育する芝生であれば更新作業後の回復状況も想定できますが、今年のような天候は想定通りに行かない恐れもあります。
今年は、全国のグラウンドキーパーや芝生管理者さんが苦悩していることでしょう。芝生の管理は、グラウンドキーパーが10人いれば10通りの考え方、管理方法があります。なので、今回このタイミングでサッチングを行うことに悲観的な考えを持つ方がいても不思議ではありません。
それぞれが管理する芝生を取り巻く様々な環境や条件を熟知する管理者さんが、豊富な経験と知識、技術を持って実施可否の判断をしなければなりません。
今回の実施可否は、日産スタジアムのキーパーチームで慎重に議論を重ね、このタイミングでの実施を判断しました。勿論良くなるという自信を持っていますが、天気ばかりはどうにもなりません。梅雨明けを切に願うばかりです。
我々が判断した結果を随時お伝えしていきます。
来週梅雨明けが見込まれますが、今年の梅雨は例年より長いです。
また、長いだけでなく、雨が降る日が多く降る雨量も多くなっています。
植物は太陽の光で光合成をして養分を蓄えますが、今年の梅雨は日射量が少なく、十分に成長できない植物が多いと思います。
そんな中、勢いよく成長している植物もいます。
新横浜公園U字橋花壇に植栽しているサンパチェンスです。
水を好むサンパチェンスは多くの水をあげると、その分大きく生長します。
高さは50cmほどですが、まだまだ成長途中です。
夏の暑さにも強く、春から秋まで長い期間、多くの花を咲かせて公園を彩ってくれますが、サンパチェンスは見た目だけでなく、環境浄化植物として、環境にも良い植物です。
光合成をするときに、二酸化炭素を吸って酸素を吐き出しますが、他の植物に比べ二酸化炭素を吸収する量が多いとされています。また、自動車の排気ガスに含まれる大気ガス(二酸化窒素)やシックハウス症候群の原因ともなるホルムアルデヒドを吸収してくれます。
見た目も綺麗で、環境にも良い優れた植物です。環境に良い植物を植栽し、公園としても環境改善に貢献できればと思います。
梅雨が明けると夏本番になり、猛暑になる日も増えてきます。
こまめに水分補給をして、熱中症に気を付けましょう。
芝生観察日記の第百話です。
令和二年7月22日(水)
<~ Road to 2019&2020 ~>
外は雨、新横浜上空は線状降水帯の真っ赤な雨雲が通過中で、激しい雨となっています。
排水性に優れている日産スタジアムのピッチは、これくらいで水溜まりができることはありません。
昨日、一昨日と久しぶりに晴れ間が覗き、芝生にとっては貴重な陽光となりました。
たった数時間ですが、このわずかな陽光でも芝生の顔色は上向きます。
それでも。12日のJリーグから10日が経過しましたが、この間連日の曇り空で必ずと言っていいくらい雨も降り、深刻な日照不足となっています。
日照不足は芝生の抵抗力を低下させ、様々な障害が発生します。最たるものが病害であり、懸念していたことではありますが、また新たな病気が発生しました。
写真のように、円形状の病斑で、「リゾクトニア病菌(Rhizoctonia Diseases)」が原因です。一般的には「ブラウンパッチ」と称されています。日産スタジアムでこれだけ鮮明なパッチを形成したのはあまり記憶にありません。それだけ芝生の体力が低下しているということになります。
既に、対象の薬剤を散布し、回復に向かってはいますが、天候が回復して芝生が元気にならなければ再び発病します。
日照不足の影響は、病気だけではありません。12日の試合で傷ついた部分の回復が一向に見られません。通常であれば、晴天が一週間も続けば芝生で埋まってしまうのですが、今は全くです。
この先一週間の天気予報を見ても、晴マークは見られず、梅雨明けもまだ先のようです。記録を取り始めた1951年以降の関東甲信越地方の梅雨入りの平均が6月8日、梅雨明けが7月21日となっています。今年は梅雨入りが6月11日で平均的でした。過去を遡れば8月4日の梅雨明けが最も遅いようですが、今年はそれに匹敵する長梅雨になるかもしれません。問題は期間だけではありません。梅雨の間に降った雨量を見ると今年は各地で豪雨災害が発生していますが、平均的な梅雨の2倍~3倍の雨量となっており、芝生の軟弱化に拍車をかけています。
今夜、Jリーグ再開後2試合目となるF・マリノスvs横浜FC戦が開催されます。実に13年ぶりとなる横浜ダービー。必然的に激しい試合となることは想像に難くありません。
今降っている雨も試合までには落ち着く予報ですが、ピッチコンディションはウエットです。ダービーということもあり、きっと芝生も荒れることが想定されます。
試合当日のブログの割には、両チームに全く参考になる情報ではありませんでしたが、試合後の状況は、また次回報告します。
平成8年から始めた芝生観察日記もお蔭様で、サラッと百話に達しました。誰もお祝いはしてくれませんが、見ていただける人がいる限り、引き続き書き綴っていきますのでよろしくお願い致します。