芝生観察日記の第九十七話です。
令和二年6月24日(水)
<~ Road to 2019&2020 ~>
すっきりしない梅雨らしい天気により不快な日々が続いています。
前回、一週間前に確認された芝生の病害名が特定されました。見込み通り「ダラースポット病」ではありましたが、他に「バイポラリス葉枯れ病」も併発しているようです。
ダラースポット病は、芝生の病気としてはお馴染みです。しかし、バイポラリス葉枯れ病は以前から確認されている病気のようですが、日産スタジアムでは初めて確認されました。
下の写真は、それぞれの病原菌を顕微鏡で覗いたものです。
<ダラースポット病> <バイポラリス葉枯れ病>
既に病気の発生を確認してから一週間が経過しますが、病気は日増しに羅病範囲が拡がっているため、早急に対処したいところでしたが、生憎梅雨空続きで薬剤を散布するタイミングがありませんでした。しかし、午後から天気が回復したため急遽、両方の病気に効果的な殺菌剤を散布しました。
合わせて、先週同じタイミングで確認された害虫対策として殺虫剤も散布しています。前回の日記で紹介したタマナヤガとは別に、先週末から直径20㎝ほどの芝枯れ部分を確認したので様子を見ていましたが、薬剤散布後に巡回すると案の定、「シバツトガ」の幼虫が何匹も確認されました。タマナヤガ同様に芝生の葉や茎を食害する厄介な害虫です。
<直径20㎝ほどの食害部分> <体調1㎝ほどのシバツトガの幼虫>
芝生に害を及ぼす虫の多くが、タマナヤガやシバツトガといった蛾の幼虫です。コガネムシやシバオサゾウムシ、オケラといった昆虫類も見られますが、蛾の幼虫は年に3~4回発生するため油断できません。
シバツトガの幼虫は体調1㎝ほどで、タマナヤガに比べると小さめですが、タマナヤガは1か所に1個の卵を産み付けるのに対し(2~15個の卵塊という形で産み付けるケースもあるようです)、シバツトガは1か所に卵塊として何百という卵を産み付けると言われているため、孵った幼虫が集団で辺りの芝生を食べ尽くします。そのため、発見が遅れると被害は甚大です。
写真がぼけて分かり辛いかもしれませんが、タマナヤガ同様スケールに乗せた幼虫は気持ち悪いですね。。。カメラを持つ手が震えます。何年経っても好きになれません。
とりあえず、薬剤散布ができたことで一安心ではありますが、梅雨時期は湿度が高く、日照時間も減少するため芝生に多くのストレスがかかり、またいつ違う病気や害虫による被害が出るかもしれません。
話は横道に逸れますが、殺菌剤などの薬剤を散布する際は、農業などでも同様ですが散布した薬剤が雨や散水で流れ落ちて効果が低下しないように、展着剤という液体を混合して撒きます。主成分は界面活性剤です。身近なところでは台所用洗剤と言えばピンと来るでしょうか。
今回の散布でも混合したわけですが、界面活性剤の成分にも種類があり、日産スタジアムで使用している展着剤に含まれるポリオキシエチレンアルキルエーテルという界面活性剤が、今話題の新型コロナウイルスの消毒に効果的であり、品不足が続くアルコールに変わる選択肢であると経済産業省が発表しました。
https://www.meti.go.jp/press/2020/05/20200529005/20200529005.html
今回の発表により新型コロナウイルス対策として界面活性剤が有効であるということなので、プレーヤーのみならず芝生管理スタッフにも安全・安心な環境を提供できそうです。
先が見えないウイルスとの戦いですが、皆さんの健康管理に役立てていただければ幸いです。
次回をお楽しみに。
今年は、冬から春にかけて、暖かくなるのが早く、小机競技場ローズガーデンのバラは4月下旬から綺麗に咲いていました。バラが多く咲く時期(5月)は過ぎてしまいましたが、まだ咲いているバラを紹介します。
白い花「ウィリアム&キャサリン」。花は大きさにより大輪、中輪、小輪とありますが、ウィリアム&キャサリンは中輪です。
香りは決して強くないですが、花に近づけばバラの香りを楽しめます(中香)。
濃赤の花「ダーシー・バッセル」。ウィリアム&キャサリンと同様中輪で中香です。
ウィリアム&キャサリンもダーシー・バッセルも港の見える丘公園から移植されたバラです。
この春、小机競技場ローズガーデンのバラを新横浜公園ホームページ生き物図鑑に追加しました。ご来園の際は、咲いているバラを調べてみてください。
芝生観察日記の第九十六話です。
令和二年6月16日(火)
<~ Road to 2019&2020 ~>
6月11日に梅雨入りが発表されました。例年より3日ほど遅れての梅雨入りです。
梅雨入りした当日は激しい雨となりました。ひと昔前まで梅雨と言えばしとしとと雨が降り、アジサイの花とカタツムリなんて風情を感じる季節でしたが、最近は天気の様子がずいぶんと変わりました。
しかし、気温と湿度が上がってじめじめした蒸し暑さは今も昔も変わりません。
人間にとって一年のうちで最も不快な季節ですが、芝生にとっても色々な障害が出る季節です。
写真は、昨日の朝に確認した病気の菌糸です。黄色い輪の中に白い綿状の菌糸が見られます。写真では分かり辛いのですが、その脇の黒い輪の中には赤茶色に枯れた病斑も見られます。
恐らく「ダラースポット病」か「カーブラリア葉枯病」辺りではないかと思われますが、今後の対応を決める上で正確に病原菌を特定する必要があります。既に菌糸を含む芝生を専門の研究所に送り、菌の特定を依頼しました。
いずれの病気にしても、高温多湿が発生要因の一つですが、この手の病気は芝刈り機のほか、人が歩いた靴に菌糸が付着してどんどん拡散します。発見が遅れ、対応を間違えると激発して大きな被害となるため迅速な対応が求められます。
次は、今朝発見したのですが、黄色い輪の中央に穴が空いているのが分かりますか。その周りの芝生は茶色く齧られたようになっています。犯人は白い輪の中にいる「タマナヤガ」という蛾の幼虫です。既に相当量の芝生を食べてまる丸と太っています。体長は凡そ4㎝ほどです。
朝の巡回時に所々で芝生が円形状に赤茶色に枯れた部分を見つけ、気になったので芝生を掻き分けて見ると大きな穴が見つかったので、穴の中を穿ってみると4㎝くらいの深さに潜っていました。芝生害虫の多くが、日中は土の中に潜んでいて、夜になると表面付近に上がってきて芝生の根や茎を食害します。
この虫の個体自体は決して多くはありませんが、体が大きいため1匹あたりの被害が大きく、気付かないうちに数cmにおよびます。そのため、先ほどの病気と同様に早期発見、早期対応が重要です。
日産スタジアムの芝生管理は、微生物の活動を重視して有機肥料を中心とした管理方法であるため、病害虫に対する予防的な対応は極力行わないようにしています。そのため、特に病気に関しては病原菌が特定次第、速やかに適応薬剤を散布して被害を最小限に抑えるよう心掛けています。
病気が特定されたら対応等を含めてまた報告します。
観察日 : 2020年 6月2日(火)
場 所 : 園路脇、バタフライガーデン、大池付近
生きもの: オオヒラタシデムシ、ラミーカミキリ、コシアキトンボ、オオヨシキリ
記事作成: 横山大将(NPO法人鶴見川流域ネットワーキング)
緊急事態宣言が解除され、やっと普段の生活に戻り始めました。そうこうしている間に、もうすぐ梅雨に入ろうとしています。ジメジメとした日が多く、気分も落ち込みがちですが、なんとか乗り切りましょう!
今回は朝のまだ涼しい時間から観察を始めてみました。園路を歩いていると、死んでしまったミミズが多く見られました。前日に雨が降っていたためでしょう。そのミミズに乗っかるようにして、コウチュウの仲間がちらほらと見受けられます。いずれも、革小物のような鈍い光沢のある黒っぽい色をしています。正体は「オオヒラタシデムシ」。
ミミズを食べるオオヒラタシデムシ(成虫)
ミミズを食べるオオヒラタシデムシ(幼虫)
シデムシ類は生きものの死骸を食べる分解者で、そこから「死出虫」という名前がつけられたそうです。中でもこの種類は市街地の公園から林道まで広い地域で見られます。名前の由来は、「大きくて平たい死出虫」と、見た目そのものからきているようです。幼虫も平たい体型をしていますが、成虫とは違い、テントウムシの幼虫を大きくしたような、はたまたフナムシのような形をしています。ジ○リ作品にでも出てきそうなフォルムで、個人的にはカッコいいと思うのですが、この話をするとほとんどの方に引かれてしまいます・・・。
続いてバタフライガーデンの様子を見てみましょう。雨が上がったばかりだからか、チョウ類はそれほど見られませんでしたが、1匹の甲虫に目を惹かれました。「ラミーカミキリ」という小型のカミキリムシです。
ラミーカミキリ
青緑色に黒い特徴的な模様で、初めて見たときはその色合いに驚かされました。今では普通に見られますが、本来の生息域はインドシナ半島や中国だそうです。日本には幕末から明治にかけて入ってきたとされています。名前の由来は本種が食草としているラミー(イラクサ科・カラムシの変種)からきています。日本に入ってきたのも、繊維を取るために輸入したラミーにくっついてきたものが最初だとされています。模様に個体差はありますが、胸部の黒い点が目、前翅の黒い模様が4つの足のようにも見えるので、「パンダカミキリ」と呼ぶ方もいるようです。
日も昇り、暑くなってきたので最後に大池の様子を見て、撤収するとしましょう。ラミーカミキリほどではありませんが、こちらにもパンダカラーの昆虫がいました!「コシアキトンボ」です。
休憩中のコシアキトンボ(♂)
人間で言うところの腰のあたりが白く空いているので「腰空きトンボ」という名前です。写真はオス個体ですが、メスは腰が黄色く空いているので、雄雌の見分けは慣れると簡単です。コシアキトンボの写真を撮っていると、大池対岸の藪から「ギョギョシ!ギョギョシ!」と聞き慣れた鳥の鳴き声が聞こえてきました。新横浜公園で見られる夏鳥の代表「オオヨシキリ」です。
さえずるオオヨシキリ
普段は鳴き声が聞こえるだけで、その姿はあまり見えませんが、園内の水路や大池の近くでこの鳴き声が聞こえたらよ~く目を凝らしてみてください。オオヨシキリの姿を見ることができるかもしれませんよ!
まもなく梅雨入り。夏もすぐそこまで来ています。早く虫とりや生きものの観察をしたいところではありますが、まだまだ油断はできません。不要不急の外出は控え、手洗い・うがいをしっかりして、皆さんで新型コロナを乗り越えましょう!
観察日 : 2020年 5月27日(水)
場 所 : 水路、大池など
生きもの: オオヨシキリ、アオサギ、スッポン
記事作成: 阿部裕治(NPO法人鶴見川流域ネットワーキング)
季節は春から初夏へ。草木の緑は濃さを増し、ずいぶん茂ってきました。公園内の水路に生えているアシやオギもこの1ヶ月で大人の背丈ほどに伸びています。この時期の植物の成長は本当にあっという間ですね。
水路の植物の様子 4月23日 → 5月27日
スケボー広場付近の水路に近づいてくると「ギョギョシギョギョシ」という大きな声が聴こえてきました。夏鳥のオオヨシキリです。今年も無事に新横浜公園に渡来してくれました。アシ原の中からヤナギの木が突き出て生えており、その辺りから鳴き声が聴こえます。しかし、目視や双眼鏡で探しても姿はなし。しばらく様子を伺っていると、アシがガサガサっと動き、葉の隙間からオオヨシキリが見えました。フィールドスコープをあわせているうちに、飛んでしまいましたが、そばにあるメタセコイアの上の方にとまり、難なく撮影成功。
新横浜公園では、水路の一部にオオヨシキリエリアを作り、一昨年は巣を1つ、昨年は2つ確認することができました。今年も巣作りに期待したいです。(参照:生きもの観察日記323)
オオヨシキリ
続いて大池に向かうと、水面にはヒシが点々と出始めてきていました。昨年の夏はヒシが覆っていない場所が割と広く見られましたが今年はどうなるでしょうか。今日はアオサギが多く、アメリカザリガニを捕食する場面も撮影できました。
大池 水面にポツポツとヒシが見られます。
アメリカザリガニを捕食するアオサギ
双眼鏡で水辺を流し見ていると、水際に灰色っぽいツルッとしたような物体を発見。みなさんは何だと思いますか?過去に見ているあの生きものだと確信はあったものの、しばらく見ていても全く動かず、だんだんと確信への疑いが大きくなってきました。じりじりとした暑さとも闘い10分程たったとき、ズルズルっと物体が動いて水の中へ。灰色の物体は、確信通りスッポンでした。
今回は、オオヨシキリ、スッポンと忍耐戦が続きましたが、これからの暑い季節は要注意ですね。緊急事態宣言が解除されましたが、再度コロナウイルスの感染が広がらないよう、ひとつひとつの行動に注意し、熱中症にも十分気をつけて観察を楽しみましょう。
ツルッとした感じのこの物体はなんでしょう?
スッポンでした!